針山地獄からこんにちは

着物縫ってます。宇宙行って無重力ファッションショーしたいです。

もしかしてリメイクですか?

 手塚治虫の「火の鳥」を読み返しておりました。未来編が好きです。地上が荒廃して人類が住めなくなり、地下都市を建設して移住したあとの世界のお話です。地下都市の人々はスーパーコンピューターの指示に従って生活することになっています。地球の危機を乗り越えるために、個人的な感情におぼれやすい人間の政治家を排し、電子頭脳の計算に頼ることにした結果そうなりました。しかし人間というのは上手いこと計算通りにはいかないものですね。そんな生活をしている未来人たちがどんなものを着ているかというと、思い思いに過去のファッションに身を包んでいるのです。スーパーコンピューターの指示に従い合理的な生活を送る未来人は、古い文明を懐かしんで原始時代みたいな格好をしてみたり中世ヨーロッパのような格好をしてみたりとめちゃくちゃなのです。こんなことは電子頭脳の計算には入っていない、けしからんということで服装を取締まることになります。そのことについて作中でこんなせりふが出てきます。

 

いまの生活は合理化が徹底しすぎて無味乾燥なんだ

いまにも窒息しそうなんだ・・・・・・

だから せめて うるおいをもとめて・・・・・・

 

 せめてファッションくらいはとうるおいを求めた人々を取り締まったとしたら、どうなってしまうのでしょうね。しかし実際にその取締りが行われる前に人類は滅亡してしまうのですけれど。

 ここで不思議なのが、この未来人たちの着ている服はどこからやってきたのかということです。みなが好き勝手な格好をすることを快く思わないコンピューターが、おしゃれな服を作ったり売ったりするための設備を建設させてくれているとは考えにくい。それに地下に逃げてきているので、物資にもそんなに余裕があるとは思えません。好きな生地を好きなだけ好きなように買い揃えることができる人は限られてくるのではないかしら。そんな環境でも好きな格好をしたい人間が何をするか。リメイクに活路を見出すような気が致します。リメイクについて、私の好きな中原淳一がこんなことを言っています。

 

この時代(第二次大戦中)に婦人は「更生する技術」を知らねばなりません。和裁も洋裁も出来る―とかいう様なことではなく―一度役目はたしたと思えるものを次に角度を変えて見る目を肥やす―ことです。

一着のワンピースは雑巾になるまでには十度、二十度の更生を見る事でしょう。この更生の上手、下手によって、切符(配給用)の使用点数もほぼ決定するばかりでなく、家庭生活のうるおいも左右される事です。

 

 「更生する技術」という古めかしい言い方がなんともよいですね。未来人たちが地下に持ち込んだ衣類を角度を変えて見てみて、この布は中世フランスっぽいドレスを作るのに使えそうだとか、この布は古代っぽい雰囲気があることよなあとか想像を膨らませている光景を想像すると面白い。こんなにも思い思いの格好をしている人がたくさんいるということは、もしかしたらこの未来には「更生する技術」でうるおいのある地下都市生活を送りましょうと提唱した第二の中原淳一的な人がいたのかもしれません。だとしたらそんな素敵な人が人類の滅亡とともに死んでしまったのは惜しい気もします。けれどもそれと同時に電子頭脳の指示で服装の取締りが行われる前に人類が滅亡したのはかえって幸せだった気もするのです。なにがいいことなのかは分かりませんね。

 しかし読み返してみて改めて手塚治虫はすごいと思いました。漫画の神様と言われている方なので今更私が何か言うこともないのですが、本当にすごいと思います。地球が荒廃して人類が地下都市に移住するなんて考えるだけでもすごいのに、世界観の作り方がすごい。手塚治虫にもSFにも詳しいわけでもない私が語るのはおこがましいのですが、ちょっと考えをまとめるためにつらつらと書いてみます。

 SFはフィクションであるからして好きなように架空の世界を作っていいのですが、その世界に生きる人間(ときに人外の場合もあるけれど)の在り方という部分に関しては一種のリアリティのようなものがなければならず、でなければ読み手を置き去りにしてただただわけのわからない世界が展開していくものになりかねない恐ろしさがあるように思います。どうリアリティを演出するかというのはそれぞれの書き手によると思いますが、手塚治虫がそこに未来人がどんなものを着ているか、という非常に人間くさいテーマを出して来たところにぞくっとしました。初めて読んだ時は、なんでこんなことまで想像できるんだろう、この人の頭はどうなっているんだろうと恐ろしくなりました。私が初めて火の鳥を読んだのは小学生の頃で、長い上にテーマも深遠なので分からないところも多かったのですけれど、この未来編の服装のくだりだけはずっと心に刺さっておりました。私が人類がこの先どんな格好をするようになるのだろうと考え始めるようになったきっかけの一つが、この漫画だったのです。

 

糸之舞(しのぶ)

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